ネヴァーウィンター・キャンペーン 第19話「ヘルム砦の戦い~篝火は燃えているか~」
黒野さんDMのD&D 4th ネヴァーウィンター・キャンペーンの19話です。
死霊術の国サーイのリッチ、ヴァリンドラ・シャドウマントルと配下の赤魔道士達は古のドラコリッチ ”鎖に繋がれし巨竜”ロラガウスを蘇らせ、ついにネヴァーウィンターへの侵攻を開始する。ドラコリッチ ”鎖に繋がれし巨竜”ロラガウスはネヴァーウィンター上空を二度滑空し、守護卿区も、ネヴァーデスも、海岸地区も、ブラックレイク地区も、ネヴァーウィンター市街の大部分を吐息によって破壊しつくした。同時にサーイがニュー・シャランダー近辺に建造した要塞兼儀式焦点具の恐怖環から、死人の群れがネヴァーウィンター市に殺到する。
冒険者たちの活躍により、ネヴァーウィンター市最大の勢力ダカルト・ネヴァレンヴァー卿の拠点、正義の館は死人の群れを押し戻した。
しかし、恐怖環から絶え間なく襲いかかる死人の群れは、ネヴァーウィンター市への経路上にあるヘルム砦を蹂躙しつくそうとしていた。
パーティー
各キャラクターの詳細は割愛。
- アシュタール/指揮役(アーデント) PL:夏瀬さん
壮年の男性。ネヴァーウィンターの正統な後継者となった。 - プラチナ/制御役(ブレードダンサー) PL:はたはたさん
ピクシーの少女。テーマはハーパー・エージェント。 - ベアトリス・ウィンターホワイト/防衛役(ソードメイジ) PL:緋
エラドリンの女騎士。テーマはイリヤンブルーエンのフェイ。ネヴァーウィンター卿に命の借りがある。 - ギルターク・ヴァーリン/撃破役(ローグ) PL:妖くん
ドラウの傭兵団員。敵対していた妹が権力の座に上り、故郷と敵対的な関係にある。テーマはブレガン・ドゥエイアゼ・スパイ。
その他の登場人物
【ヘルム砦の人々】
- キムリル:同盟を求めにやってきたハーパーエージェント
- ダンフィールド隊長:ヘルム砦の隊長。狙撃された傷が治りきっていない
- アリサーラ・カラム評議長:ヘルム砦の評議長。コアミアのパープルドラゴンナイト出身。鎧を身にまとい再び戦場に立っている。
【死霊術の国サーイの勢力】
- ヴァリンドラ・シャドウマントル:ザス・タムの腹心にしてネヴァーウィンター地方のサーイの指揮者。リッチ化した強大なウィザード。
- サーイアンナイトⅠ:サーイの魔術師たちの護衛騎士。ヴァリンドラの騎士はこの地域での最強騎士だ。
- ”鎖に繋がれし巨竜”ロラガウス:数百年前に死亡したブラックドラゴン。ネヴァーウィンター森に屍骸が墜落していたが、ヴァリンドラの死霊術によってドラコリッチとなり蘇った。
- カルティリファクス:女預言者ロヒーニに仕える強力なグリーンドラゴン。呪力の底で冒険者たちに討ち取られたが、サーイに回収され、ドラゴンゾンビとしてヴァリンドラに使役されている。
オープニング:城壁の上で
凄まじい吹雪が吹き荒れるヘルム砦の第三胸壁上
「誰かが篝火を灯さないと」
鎧に身を固めたアリサーラ・カラムは苦々しく呟いた。
凶弾に倒れたダンフィールド隊長の傷が癒え切らぬ中、ネヴァーウィンター森から現れた死者の軍勢が砦を包囲した時 、混乱する兵士達を取りまとめ、防備を固めたのはかつて捨てた筈の鎧に身を固めたアリサーラ評議長だった。その名も高きコアミアの紫龍騎士団。騎士としてこの上はない栄達を遂げたはずのアリサーラが何故ヘルム砦に流れてきたのかを知るものは居ない。だが、最初の攻撃が終わった時、彼女の指揮能力を疑う者は誰一人居なかった。
とはいえ既にもう二昼夜に渡って包囲攻撃は続いている。兵達の疲労も限界近かった。 皮肉な事にヘルム砦に残された唯一の希望は、彼らと反目し続けた守護卿の援軍との合流だった。守護卿の援軍は猛吹雪の中、この砦を目指して進軍している。
しかし、この吹雪において、守護卿の援軍がヘルム砦がまだ戦い続けている事を知らせるために、あるいは、のしかかる絶望に必死で耐えるヘルム砦の人々の心を奮い立たせるために、篝火の火をもう一度灯す必要があった。
「誰が行くっていうんだ。篝火を用意した第一胸壁の上は動く死体で一杯だ。生還はおろか道程の半分も進めない内に引き裂かれちまうぞ」
血の滲んだ包帯を巻いたダンフィールド隊長が呻く。波の様に押し寄せる死者の群れ。降り注ぐ異形の砲弾。夜毎聞こえてくる敵の首領、ヴァリンドラの呪わしい予言に守備隊は後退を強いられ、もはや第2胸壁すら風前の灯だった。
人々の拠り所として期待されていた預言者ロヒーニは、大裂孔から極光が立ち上り狂気の歌が途絶えたあの日から人が変わったようになり、怯えきった状態で聖堂内の一室に閉じこもって姿を現さない。
死者の群れに引き裂かれるか、寒さに凍え死ぬか、はたまた食料が尽きて飢え死にするか。破滅は時間の問題だった。
気力を失った母親は父親の行方を問う幼子の声に黙って涙を流し、恋人達はお互いが死人の仲間にならぬよう、生き残った者が相手の遺体を燃やす事を誓い合う。
ヘルム砦はゆっくりと絶望に蝕まれていた。
「彼らが来るわ」
そんな中、確信に満ちた声で告げたのはキムリルだった。死人たちの襲撃の直前に砦に現れたネヴァーウィンターの革命家。反政府組織アラゴンダーの息子たちの指導者にして、秘密組織ハーパーのエージェント。彼女の協力もまた人々が生き残るためには不可欠だった。
「彼らなら、奇跡を起こせる」
「相手は軍勢だ。とてもじゃないがここまで辿りつけないし、たった数人の英雄が来た所で何が出来る?」
ダンフィールド隊長の指摘にアリサーラは沈痛な面持ちを向ける。
事実だった。確かにあの4人は英雄だった。しかし事態は少数の英雄の手に負える規模を超えているのだ。悪天候、物資の欠乏、死人の軍勢。優秀な指揮官は誰よりも現実を知っている。それ故にアリサーラは事態が最早どうにもならない事に気づいていた。 それでも、今彼女が絶望すれば、彼女の護る人々は絶望の内に死ぬのだ。自らのまとう装束の重みを意識し、故郷から逃げた過去を振り払うようにアリサーラは誓う。二度は逃げぬと。
「ダンフィールド隊長の言う通りだ。彼等も馬鹿ではない。無駄死にするよりもネヴァーウィンターの街を護るために力を尽くすはずだ」
アリサーラの悲壮な決意を知ってか知らずか、キムリルは不敵に笑う。
「きっとくるわ――貴方達の王がやってくる」
ハーパーの女は確信に満ちた表情で告げる。
―――この日、ネヴァーウィンターの長い夜に、新たな伝説が生まれようとしていた。
遭遇1:篝火は燃えているか
「篝火を灯さないと」
第一胸壁の上、篝火の近く。名も無き兵士たちが最後の一平卒に至るまで戦いを続けていた。彼らの命は風前の灯火であった。心の根を止めるが如きカトブレパスの凝視に一人ひとりと生命を奪われていく。
誰もが絶望したその時、炎の矢が篝火の火を灯した。篝火の光を受けて、失われたネヴァーウィンター王家の旗がはためく。幻王アシュタール、失われたネヴァーウィンター王家の貴い末裔。守護卿の援軍の先遣隊として、彼と仲間たちが篝火に火をつけることに成功したのだ。
第一胸壁の上下で、冒険者たちは強力な凝視能力を持った強大な怪物カトブレパスと死人の群れと戦う。カトブレパスの識別に失敗していた冒険者たちは、凝視能力にアシュタールの回復力の多くを奪われながらも、篝火を守りきった。
強大なドラコリッチ、ロウガラスがこの地に降り立つまでは。
遭遇2:“鎖につながれし巨竜”ドラコリッチ・ロウガラス
“鎖に繋がれし巨竜”ロラガウスが舞い降り、篝火は掻き消えた。
サーイの死霊術師ヴァリンドラ・シャドウマントルが手中に収めたブラックドラゴンの屍骸。ドラコリッチとなり操られた最悪の竜の成れの果て。ネヴァーウィンター・キャンペーン・セッティングの表紙にもある絶望的な光景である。
“鎖に繋がれし巨竜”ロラガウスは単独で出現する本キャンペーンでも屈指の強敵だ。ロウガラスに近づくものは、その存在の大きさに対する恐怖に打ち勝たなければ、攻撃をする機会すら奪われる。
冒険者たちはロウガラスの畏怖の能力と、酸のブレス、終盤に発揮される冷気によるエリア攻撃に耐えながら、ロウガラスを継続的に弱体化、幻惑、朦朧状態に留める。結果として、一日毎パワーの大部分を使い果たすことになったが、からくもロウガラスを討ち取ることに成功した。
かつてこの地に絶望を与え続けた古えの黒竜は、悪臭を漂わせながら断末魔を上げ、溶けて消えていった。
ミドルフェイズ:終わりのない吹雪
冒険者たちがロウガラスを討ち取ったことにより第一胸壁は息を吹き返したかのような騒ぎとなった。ついで、これこそが好機とダカルト・ネヴァレンヴァー守護卿自らが率いる守護卿の手勢が篝火を目標に第一胸壁に殺到する。戦局がひっくり帰ろうとしていた。
キムリル「これからが本番よ」
しかし、キムリルはサーイの指揮者ヴァリンドラ・シャドウマントルがこの状況を見逃すわけがないと予想していた。ロウガラスの二度目の死を検知したヴァリンドラは、圧倒的な質量を伴ってこの地に転移した。
岩と同化するかのごときグリーンドラゴンのドラコリッチが、守護卿の部隊を地の底へと飲み込んでいく。ヴァリンドラはそしてかつて預言者ロヒーニの従者として冒険者たちと戦い打ち倒された強大なグリーンドラゴン、カルティリファクスのドラコリッチすら、支配下に納めていた。衝撃によって三度篝火は掻き消えた。
その光景を治療院の自室から見ていた預言者ロヒーニは狂った顔で笑う。
「すべて終わりよ。終わるのだわ」
ヘルム砦を一瞥したカルティリファクスは、目線のあった女に岩石の吐息を吹きかける。預言者ロヒーニの自室は崩落し、彼女は表舞台から去った。
一方で冒険者たちの上空に浮遊するヴァリンドラ・シャドウマントルはテレパスによって語りかける。
「ロウガラスを屠ったか。いじましいことよ。ただ、我が所有する竜の亡骸は一つではない。どのようなものであれ、我が支配からは逃れられぬ」
遭遇3:ヴァリンドラ・シャドウマントル
ヴァリンドラ・シャドウマントルは告げる。
「つくづく腹の立つものどもよ。お前たちがこの地の篝火となるつもりであるならば、首だけにして千度殺しつくして其の愚かさを焼き刻んでやる」
冒険者たちにとってかつてない厳しさの戦いとなった。カルティリファクスの支配エリアの中で攻撃を行ったものは地面に叩きつけられダメージとともに転倒する。浮遊呪文によって常時一定の高度を保つヴァリンドラに有効な攻撃手段は限られる。一方でヴァリンドラは死亡した味方を復活させる死霊術や攻撃魔法を一方的に使用できる。レットウィザードもサーイアンナイトも、かつてのシナリオでは個々で強敵として登場する強さを持っている。
戦いは6ラウンド以上におよび、第一胸壁の残存兵士も篝火を守って死に絶えた。ギルタークとアシュタールがデスレイまで追い込まれ、戦闘開始時点で8あったベアトリスの回復力は0になった。ほぼすべての一日毎パワーと遭遇毎パワーを使い果たし、カルティリファクスを倒した後も厳しい戦闘が続き、8ターンを経たとき冒険者たちはすべての敵を撃退した。
エンディング:二人の王
ベアトリスの一閃がヴァリンドラ・シャドウマントルの首を落とした。首だけとなったヴァリンドラはこの地での敗北を受け入れつつも呪いの言葉を吐く。
「我が魂の箱に手をかけることなどできぬ。十日後には再び私は蘇る」
「十日も与えない。お前は二度と蘇ることはない」
冒険者たちは七日後に恐怖環にて、ヴァリンドラの魂の棺を破壊する。しかし、それはもはや本筋ではない。
どことも言えぬ闇の中。ティーフリングの商人モルダル・ヴェイが邪悪な笑みを浮かべる。前方の水晶球には、カルティリファクスの吐息に巻き込まれながらも無傷のまま部隊を統括するダカルト・ネヴァレンヴァー守護卿と、もはやヘルム砦の住民にネヴァーウィンター・ノーブルの末裔として認められ、歓呼の声で迎えられる“幻王”アシュタールを映している。
「ともには生きられぬ二人の王。最後に立っているのはどちらですかな?」
次回へ続く!